上瀬谷ライン
「上瀬谷ライン」(仮称)は、横浜市の旧米軍上瀬谷通信施設跡地へのアクセスのために計画されている新交通システムです。
施設跡地では2027年に国際園芸博覧会(花博)の開催が予定されていて、大型テーマパークの誘致も構想されています。上瀬谷ラインは、これらの利用客を運ぶアクセス路線となります。
計画区間は瀬谷駅~上瀬谷駅(仮称)で、その先に作られる上瀬谷車両基地(仮称)までの区間をあわせた総延長は約2.6kmです。
上瀬谷ラインは、当初、2022年度の着工が予定されていて、開業目標は2026年度末(2027年春)とされましたが、その後、2021年5月に当初のテーマパーク計画が断念されたことを受け、計画は凍結されました。
上瀬谷ラインの概要
2020年7月に公表された「都市高速鉄道上瀬谷ライン整備事業環境影響評価方法書」で、上瀬谷ラインの概要が明らかになりました。
それによりますと、建設区間は瀬谷~上瀬谷車両基地間の約2.6kmです。営業区間は瀬谷~上瀬谷間の約2kmです。路線はほぼ海軍道路(環状4号)に沿う形で敷設されます。瀬谷駅に近い南区間が地下式、上瀬谷駅付近の北区間が地上式です。
軌道システムはいわゆる新交通システム(AGT)で、金沢シーサイドラインで採用されているシステムと同じものになるとみられます。
全線複線で、起点は相鉄線に接続する瀬谷駅(仮称)。終点が上瀬谷小学校東側交差点付近に作られる上瀬谷駅(仮称)です。途中駅はありません。
瀬谷駅は相鉄瀬谷駅に隣接する公共施設の地下に設けられ2面1線です。ただ、両面ホームの幅は広く、構造上も将来的には2面3線(または島式1面2線)に変更できる設計とみられます。場所ははっきりしませんが、延伸可能な形にするなら、瀬谷中学校の地下に南北方向にホームを整備する案が有力でしょう。
上瀬谷駅は地表式で2面3線です。それぞれの駅にはエレベーターを設置し、バリアフリーに対応します。
上瀬谷駅の先には上瀬谷車両基地(仮称)も整備します。構造は地表式で、車両の点検や留置、試運転等を主な用途とし、点検線や留置線、変電所、管理棟等を設けます。面積5.1haは、東京ドームの建築面積(4.7ha)に匹敵する広さです。
車両は約8.5m長を最大8両編成とします。このため、瀬谷、上瀬谷駅のホーム長さは約72mもあります。日本の新交通システムは4~6両程度が一般的で、8両編成が走れば、新交通システムとして日本最長となります。
運転本数は1日上下414本を計画していて、朝ラッシュ時の最大運転本数は上下36本です。つまり、1日18時間運行とすると、平均毎時11.5往復。日中時間帯に限れば、6~8分間隔での運転を想定しているとみられます。
設計最高速度60km/hです。瀬谷~上瀬谷間に途中駅はないことから、所要時間は5分程度になりそうです。2022年度に着工し、開業予定は2026年度です。
概算事業費は約700億円。2.8kmの新交通システムとしては巨額ですが、路線にシールドトンネルを含むこと、5haもの車両施設も設けることなどから、費用が膨れあがってしまうのでしょう。
以上が、2020年に公表された上瀬谷ラインの計画です。5haの車両基地や、2面3線の上瀬谷駅の規模など、2kmあまりの路線にしては設備が過大です。そのため、将来的な延伸を想定しているのは間違いありません。つまり、瀬谷~上瀬谷間はいわば「第1期工事」とみられます。
延伸先は上瀬谷から先、環状4号線沿いに十日市場・青葉台方面か、長津田方面が有力視されています。現状の交通が不便な若葉台では、上瀬谷ラインの早期延伸を求める声もあるようです。
瀬谷から南方面の延伸は定かではありませんが、瀬谷駅が延伸対応になっているのであれば、遠い将来にはいずみ中央方面への延伸の可能性も残しているといえそうです。
上瀬谷ラインの沿革
米軍上瀬谷通信施設の返還が決まったのが2004年。実際に返還されたのは2015年です。返還にあわせ、横浜市は再開発を計画し、上瀬谷ラインはその交通機関として構想されました。ただ。2015年段階では具体的な路線計画は示されていませんでした。
2016年の交通政策審議会答申第198号には、「例えば上瀬谷通信施設跡地の開発等に対応する新たな交通については、関係地方公共団体・鉄道事業者等において、LRT等の中量軌道等の導入について検討が行われることを期待。なお、検討に当たっては、開発等の状況とそれに伴う輸送需要の動向を踏まえつつ、まずはBRTを導入し将来的に中量軌道等に移行するなどの段階的な整備も視野に入れるべき」という文言が入りました。
2019年に、横浜市は2027年国際園芸博覧会(花博)を上瀬谷通信施設跡地に誘致すると決定。同年9月に国際園芸家協会(AIPH)より正式承認されました。2019年12月には「旧上瀬谷通信施設⼟地利⽤基本計画」を公表。「瀬谷駅を起点とした新たな交通(中量軌道など)の導入を図ります」と記しており、LRT、新交通システム、モノレールなどを例示していました。
翌2020年1月24日には「(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン」という仮称で、環境アセスメントの計画段階配慮書を公表しました。この時点では、瀬谷~上瀬谷間という区間は明らかにされたものの、どういう輸送システムを導入するかは未定のままでした。新交通システムに決定したと明らかにされたのは、2020年6月の横浜市議会です。
この頃には、花博閉幕後にオープンする大型テーマパークの誘致についても報じられていました。具体名は明らかにされていませんが、相鉄が米映画会社による大型テーマパークを誘致しようとしていたようです。横浜市では、花博・テーマパークといった大型施設を誘致することにより「郊外部の新たな活性化拠点の形成に資する交通ネットワークの整備が必要」として、上瀬谷ラインを整備することにしたものです。
2020年7月に公表された「環境影響評価方法書」によりますと、「最寄りの相模鉄道本線瀬谷駅から本地区へ至る中量軌道輸送システム等の新たな交通を整備した場合、本地区将来土地利用時の需要に対し、約4割から5割程度が新たな交通を利用して来訪することが見込まれます。この将来のまちづくりに伴い見込まれる交通需要に応える輸送力を有し、定時性・安定性を確保することが可能な中量軌道輸送システム等として、線形条件、建設費等を総合的に勘案し、新交通システム(AGT)を選定」したと説明しています。
しかし、2021年5月に、相鉄が大型テーマパークの誘致を断念したことが報じられ、風向きが変わります。2021年9月に、横浜市が横浜シーサイドライン(金沢シーサイドラインの事業者)に対し営業事業者となることを要請したものの、11月に同社が見送りを決定。大型テーマパークが決まらないため、事業者が決断できませんでした。これを受け、2027年の花博までの上瀬谷ライン開業は不可能になりました。
上瀬谷ラインのデータ
営業事業者 | 未定 |
---|---|
整備事業者 | 未定 |
路線名 | 上瀬谷ライン(仮称) |
区間・駅 | 瀬谷-上瀬谷 |
距離 | 約2.6km |
種別 | 第一種鉄道事業 |
種類 | 案内軌条鉄道(AGT) |
軌間 | -- |
電化方式 | 直流750V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | -- |
上瀬谷ラインの今後の見通し
花博の開幕は2027年3月です。これに間に合わせるため、横浜市では、2020年度に設計、測量、調査を実施し、軌道法の特許を申請。軌道法特許を取得したうえで、用地の取得、工事認可申請と進む計画でした。
しかし、事業主体となることを要請された横浜シーサイドラインが参画を見送ったことで、上瀬谷ラインの2027年開業は不可能になり、計画は事実上凍結されました。
その後、2023年9月に、三菱地所が新たな開発計画を発表。アニメやゲームなど「ジャパンカルチャー」を核に据えた大型テーマパークを開設することを明らかにしました。これを受け、上瀬谷ラインの計画が再び動き出す可能性は高まっています。
営業主体が決まり、事業着手してしまえば、土地買収などの手間はあまりかからなそうなので、5~6年で開業は可能です。そのため、テーマパークが具体化すれば、上瀬谷ラインの計画も動き出すかもしれません。
「第2期」にあたる長津田または十日市場方面といった横浜線方面への延伸については、まったく見通せません。
2020年6月の市議会で、横浜市側は「鉄道・軌道を敷くためには、国の交通政策審議会を通すという原則があり、今回の上瀬谷も答申に書かれている。その先については、まだ未定」と答弁しました。
2016年審議会答申には「上瀬谷通信施設跡地の開発等に対応する新たな交通」として記載されていて、上瀬谷ラインはこれに基づいています。しかし、横浜線方面を含め具体的区間の記載はありません。次期答申は2020年代後半になるとみられ、具体的な計画がまとまるとしてもその頃でしょう。
次期答申に記載されたとして、実際に延伸工事に着手するのは、どんなに早くても瀬谷~上瀬谷間の開業後です。となると、横浜線方面への延伸開業は2030年代後半にできれば上等で、実際は2040年以降になる可能性が高そうです。