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那覇LRT

那覇市LRTは、沖縄県那覇市の真和志地域を中心にLRTを敷設する計画です。2019年度にまとめられた那覇市地域公共交通網形成計画に掲載されました。東西軸と南北軸の2ルートが計画されています。開業時期は未定です。

那覇LRTの概要

那覇市では、モノレールと並ぶ交通軸としてLRTの導入計画を進めています。2018年3月には、「初期段階のLRT導入可能性調査」(以下、導入調査)という報告書がまとめられました。

導入調査では、LRT導入の意義として、都市の東西軸の形成をあげています。現状の那覇市はモノレールによる南北方向の交通軸しかなく、「LRT等を導入し、東西の交通軸を形成することにより、都市のシンボル軸との連携、市域外との連携軸の形成」が図られるとしています。

交通面での効果としては、速達性の向上、定時性の確保、交通環境の改善、公共交通不便地域の解消、移動の円滑化、公共交通利用の増加などがあるとしています。

導入調査では、LRTのルート案として、旭橋付近から東西に延びるルートを基本とし、3つの素案を設定しました。順にご紹介しましょう。

素案1は、東西軸をもう一本作る案(約5.1km)です。

画像:那覇市LRT導入可能性調査の概要

素案2は副都心へ伸びる案(約4.8km)です。

画像:那覇市LRT導入可能性調査の概要

素案3は、那覇北部を周回する案(約6.6km)です。

画像:那覇市LRT導入可能性調査の概要

概算事業費は素案1が約322億円、素案2が約323億円、素案3が約529億円です。1kmあたりの事業費は約63億円~80億円で、LRTとしては高額です。

1日あたりの予想利用者数は、素案1が約9,600人、素案2が約11,300人、素案3が13,700人となりました。

収支採算性では、単年度収支が素案1が 1,600万円の黒字、素案2が1億900万円の黒字、素案3が7,800万円の黒字と予想しています。

ルート 素案1 素案2 素案3
概算事業費 322億円 323億円 529億円
概略需要 9,600人/日 11,300人/日 13,700人/日
運輸収入 4億2200万円 4億9900万円 6億500万円
運行経費 4億600万円 3億9000万円 5億2700万円
単年度収支 1,600万円 1億900万円 7,800万円

事業スキームは、自治体が整備主体となり、第三セクターが軌道運送事業者となる上下分離方式が想定されています。

その後、2019年度には、導入調査報告書を基にした那覇市地域公共交通網形成計画(網形成計画)の骨子案が公表されています。そのなかにLRT計画も盛り込まれました。

網形成計画では、ルートは最終的に素案2に絞り込まれています。

画像:那覇市地域公共交通網形成計画(骨子案)

網形成計画では「真和志地区と中心市街地、新都心地域を結ぶわかりやすいルート設定」を掲げ、真和志を中心としたエリアにLRTを整備する方針を明記しています。このLRTが、真和志地区の交通改善を主目的にした路線であることがはっきり示されたわけです。

詳細なルートは示されていませんが、以下のように考えられます。

東西軸の起点は那覇旭橋のバスターミナル付近。そこから那覇高校前を経て開南せせらぎ通りを東へ向かい、開南交差点で南東に折れて開南本通りに入ります。寄宮十字路(真和志小学校前)で南北軸と交差し、真地久茂地線を東進して、県立南部医療センター付近が終点です。

南北軸の起点は那覇新都心の西端にある上之屋交差点付近。那覇中環状線をたどっておもろまち駅前を経て、真嘉比で南に折れます。松川を経て寄宮十字路で東西軸と交差。そのまま南下して、真玉橋に至ります。

那覇LRT延伸の沿革

那覇市には、戦前の一時期、路面電車が敷設されていました。通堂~首里間6.9kmで、那覇港周辺から市街地を経て首里に至る路線です。1917年に全線開業、1933年に全線廃止という短命路線でした。このとき、首里から真和志に至る路線も計画されていましたが、実現はしませんでした。

戦後、那覇市内の道路渋滞が激しくなると、那覇市内に軌道系交通機関を敷設する計画が浮上し、「ゆいレール」として結実します。ゆいレールは那覇市中心部と首里を結んでおり、経路こそ違うものの、戦前の路面電車の生まれ変わりともいえます。

一方で、新たに路面電車を敷設する計画も浮上しました。明確にいつ浮上したかは定かではありませんが、どうやら1990年代に国際通りに路面電車を走らせようという構想が浮上してきたようです。

2000年に那覇市長に当選した翁長雄志氏は、選挙中に国際通りや平和通りに路面電車を敷設することを訴えました。同氏の公約だったわけです。同市長は、2004年の再選後、12月の定例市議会で「新世代路面電車の敷設」を政策目標の一つとして掲げました。

この新世代路面電車がLRTで、那覇市はこの頃から市内にLRTの敷設の調査を開始したようです。同定例会で、翁長市長は、象徴的な例として新都心から国際通りへの路線をあげています。

その後、那覇市では、2003年度に中心市街地まちづくり交通計画調査、2005年度に那覇市における新たな公共交通に関する基礎調査などを行い、そのなかで新型路面電車を含めた公共交通システム調査をおこないました。

この調査では、国際通りと新都心や真和志地域などを結ぶルートのケーススタディを行い、事業費や走行空間の条件といった課題整理をしています。このケーススタディは、14kmのLRTを導入した場合、概算事業費として約320億円、1kmあたりに約23億円がかかると試算しました。

2009年には那覇市交通基本計画を策定。那覇市・沖縄市間を南北に、那覇市・与那原町間を東西に、それぞれ結ぶルートを広域的な公共交通の基幹軸として位置づけました。さらに、モノレールと結節し、真和志地域と中心市街地、中心市街地と新都心を結ぶルートを市域内の公共交通の基幹軸として位置づけました。

この東西の基幹軸として想定されていたのがLRTです。つまり、この時点では、LRTは、国際通りではなく、那覇中心部~真和志~与那原を結ぶ交通機関という位置づけになっていたわけです。

2012年の市議会定例会では、当時の都市計画部長から、「那覇~与那原間のLRT導入につきましては、市町村をまたぐ広域的な交通計画であり、現在、国において軌道系導入に向けた可能性調査を実施中」という答弁がありました。

2014年には、翁長氏の後を継いで、城間幹子氏が那覇市長に当選。城間市長もLRT建設を公約に掲げていたため、LRTの調査を継続します。2018年3月には、上述の「初期段階のLRT導入可能性調査」がまとまり、3つのルート素案が公表されました。

さらに、2019年12月に「那覇市地域公共交通網形成計画」の骨子案が公表され、素案2が採用されたことがはっきりします。

旭橋~真和志(寄宮)~県立南部医療センターを結ぶ東西路線と、上之屋~おもろまち~真和志(寄宮)~真玉橋に至る南北路線です。

ルート案が決まったことで、那覇LRTの具体的な形が見えてきたことになります。

2024年3月には、那覇市がLRTの導入計画を公表。知念覚市長は、開業は早くても2030年代半ばになるとの見通しを示しました。


那覇LRTのデータ

那覇LRTのデータ
営業事業者 未定
整備事業者 未定
路線名 未定
区間・駅 旭橋~県立南部医療センター
上之屋~真玉橋
距離 未定(合計約10km程度)
種類 軌道
軌間 未定
電化方式 未定
単線・複線 未定
開業予定時期 未定
備考 --

那覇LRTの今後の見通し

那覇市LRTは、当初は国際通りと新都心を結ぶ象徴的な新交通機関として語られてきました。その後、那覇~与那原を結ぶ基軸交通という位置づけになり、現在は、そのうちの那覇市内が切り取られ、市中心部と真和志、県立南部医療センターを結ぶ生活路線という形になってきました。

おおざっぱにいえば、那覇東部への公共交通が貧弱なので、その解決策として選挙公約だったLRT事業が当てはめられたという観があります。

実際のところ、想定経路に軌道を敷設するのは簡単ではなさそうです。導入予定の道路には片側1車線の区間もあり、LRTの専用軌道を導入するには不十分です。2車線道路区間にしても、1車線を専用軌道に供して問題ないのか、という不安もあるでしょう。実際に導入する場合、マイカー利用者から強い反対が起こる可能性が高そうです。

しかも、真和志方面は勾配が多く、一部区間で道路の勾配が40パーミル~60パーミルを超えたり、停留所の多数が縦断勾配10パーミル以上になるという問題もあります。こうした路線に鉄軌道が適しているのか、という疑問もあります。

那覇市東部に軌道系交通機関を導入するという大きな政策目標に異論は少ないとみられますが、具体論に入ると課題山積で、そう簡単に解決できそうもありません。LRTとしては高額な事業費予測になっていて、それもネックになるでしょう。

那覇市では、事業化に向けた調査を2024年3月に取りまとめ、事業化へ向けた調整に入ります。那覇LRTは開業すれば利用者は多いとみられますが、建設までのハードルは高く、現時点では実現できるか、不透明というほかありません。

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