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福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画

福岡市営地下鉄箱崎線は中洲川端~貝塚間4.7kmを結ぶ路線です。西日本鉄道貝塚線は貝塚~西鉄新宮間11.0kmを結ぶ路線です。貝塚駅で両線をつなぎ、相互乗り入れによる直通運転をする計画があります。

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画の概要

福岡市営地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線は、貝塚駅で接続しています。両線は進行方向で向き合う同一平面のホームになっています。両駅を完全統合し、両線を直通する列車を走らせようというのが、福岡市営地下鉄・西鉄貝塚線直通計画です。

画像:福岡市

貝塚駅は現在地に移転した1985年当時から両線の直通運転を想定した構造になっています。また、両線とも軌間は1067mmで、電圧は1500Vと基本仕様は同じです。そのため、レールをつなげれば直通運転は可能で、レールをつなぐことに関するハードルは高くありません。

しかし、宮地岳線は最大3両編成の設備で、地下鉄は6両編成です。西鉄に現在の地下鉄車両がそのまま入るにはホーム延伸が不可欠で巨費がかかることなどから、直通運転の実現は先送りされ続けてきました。

下記は現状の運転状況で、地下鉄が6両、西鉄は2両で運用されています。ダイヤは貝塚駅での両線の接続が考慮されています。

画像:福岡市

直通運転の具体案は何度か出てきましたが、近年では2010年と2018年に明らかになった2つの案が知られています。前者が「3両乗り入れ案」、後者が「増結・分離案」です。ともに、西鉄側のホーム延伸を必要としない案です。

「3両乗り入れ案」は、3両編成の車両が天神・中洲川端~西鉄新宮間を直通運転します。天神駅には、折り返し用のホームを増設します。

画像:福岡市

「3両乗り入れ案」の場合、初期投資として車両と設備に260億円が必要と試算されました。単年度収支は0.1億円の黒字と見込まれ、約99%の公的資金を充当した場合、開業30年後に累積収支で黒字化が可能です。しかし、費用便益比(B/C)は0.6と試算され、基準の1に届きません。

この案では、箱崎線内から乗車して天神以西に行く場合は利便性が低下するという難点もあります。福岡市の調査によると、貝塚線内から乗車し天神までのいずれかの駅で下車する人は1日5,230人で、箱崎線内から乗車し天神より西の駅で下車するのが同6,423人(2015年度推計)です。

つまり、3両案では、直通のメリットを受ける人よりも乗り換え増のデメリットを受ける人のほうが多いことになります。こうなると、直通運転をする意義が問われてしまいます。3両編成が姪浜まで直通すればそのデメリットは解消しますが、その場合、空港線内での輸送力が不足します。

こうした問題から、「3両乗り入れ案」は実現不可能という結論になり、替わって浮上したのが「増結・分離案」です。

「増結・分離案」は、4両+2両の編成の車両を新造し、貝塚駅で増結・分離、西鉄線内には2両編成のみ乗り入れるという案です。箱崎線内は6両または4両で運転します。中洲川端以西に乗り入れるのは6両編成のみですので、空港線内の輸送力不足も生じません。

ただし、貝塚駅での列車の増結・分離作業に時間と人手が必要となります。増結・分離のイメージは下記の通りです。

画像:福岡市

増結・分離にかかる時間については、増結に5分、分離に2分が必要と見積もっています。一方、既存ダイヤでは、地下鉄と貝塚線の乗り継ぎ時間は5分以内が8割です。つまり、直通しても時間短縮効果は限られ、平均で1.3分にとどまるという計算になりました。

増結・分離案は、設備投資費用が少ないとはいえ、駅構内の改修や、貝塚駅での待避線設置、ホームドアの4両対応などの投資は必要で、約108億円がかかります。さらに76両の車両費が約47億円で、合計の事業費は約155億円と見積もられました。

一方で、便益については、所要時間短縮による利便性向上の便益が約32億円にとどまったため、合計でも約44億円で、費用便益比(B/C)は0.42と低い数字になりました。単年度収支に関しても約2.6億円の赤字が見込まれ、累積損益で黒字化ができません。

西鉄貝塚線と地下鉄全線を合わせた利用者数は、2017年で1日463,500人います。沿線の人口は増加傾向で、開発も進んでいるため、2035年には1日約48,000人の利用者の増加を見込んでいます。両線が直通運転を行った場合、さらに1日800人の増加を見込みます。

とはいえ、増結・分離案でも費用便益比は1に全く届かず、累積資金収支も発散してしまいます。事業化には国土交通省の都市鉄道利便増進事業の補助を受けることが前提ですが、これらの数字では補助採択基準を満たすことはできません。

さらには、新型コロナ禍を受け、2020年度に西鉄が「新たな投資については現段階では困難な状況」との意向を示すに至りました。当事者である西鉄が投資に後ろ向きな姿勢に転じてしまったわけです。

こうしたことから、福岡市は2021年1月に公表した「福岡都市圏における公共交通に関する調査」において、「将来的な直通運転化も視野に入れながら、当面は、沿線まちづくりを推進しつつ、より使いやすい公共交通となるよう利便性向上策などの検討に取り組む」という方針に転じました。要するに直通運転計画を凍結することになったわけです。

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画の沿革

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画は、1971年3月の「都市交通審議会答申第12号」にまでさかのぼります。同答申では、「都心部から箱崎方面に至る路線(現地下鉄箱崎線)の新設」が必要とした上で、「西鉄宮地岳線(現貝塚線)との直通運転についても検討する必要がある」と記されました。つまり、地下鉄箱崎線は建設検討段階から西鉄との直通運転を想定していたわけです。

1985年に西鉄が貝塚駅を現在地に移転し、翌1986年に地下鉄が貝塚駅まで開業。両線は将来の直通運転を想定し、進行方向で向き合う同一平面にホームを配置しました。しかし、上述したように、宮地岳線は最大3両編成対応のため、6両編成の地下鉄が入るにはホーム長が足りません。そうした課題があり、直通運転の実現は先送りされ続けてきました。

動きが出たのは1997年。福岡都市交通問題協議会で、福岡市と西鉄が相互直通運転の実現に向けて検討を行うことで合意。このときは、貝塚~西鉄香椎間3.6kmが相互直通運転区間とされました。

2002年には、福岡市議会で、西鉄三苫まで地下鉄箱崎線を乗り入れる趣旨の請願を採択しました。これは、三苫までが福岡市内のためで、三苫以北の自治体の調整をしていない請願だったためです。2006年には西鉄香椎駅付近の立体化が完了。このとき高架化された西鉄千早、香椎宮前、西鉄香椎の3駅は将来的にホームを6両対応に延伸できる構造になっています。2007年には、宮地岳線の西鉄新宮~津屋崎間9.9kmが廃止。このとき、路線名が貝塚線へ変更されました。

2010年になり、福岡市が3両編成での直通案を発表。このときも三苫までの乗り入れ案でしたが、後に天神~西鉄新宮間を直通する乗り入れ案に修正しました。しかし、費用対効果や、地下鉄線内の利便性の問題から断念したのは、上述の通りです。

そして2018年1月に公表されたのが2両増結・分離案です。4両+2両の6両編成の車両を製造し、貝塚駅で増結・分離し、2両のみが西鉄線内に乗り入れるという計画です。しかし、検討したところ、費用便益比も収支採算性も基準を満たせず、2021年1月に、事実上断念することが公表されました。

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画のデータ

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画のデータ
営業事業者 福岡市交通局、西日本鉄道
整備事業者 福岡市、西日本鉄道
路線名 箱崎線、貝塚線
区間・駅 中洲川端~西鉄新宮
距離 4.7km(箱崎線)、11.0km(貝塚線)
種別 第一種鉄道事業
種類 普通鉄道
軌間 1067mm
電化方式 直流1500V
単線・複線 複線(箱崎線)、単線(貝塚線)
開業予定時期 未定
備考 --

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画の今後の見通し

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画は、2021年1月に「福岡都市圏における公共交通に関する調査」(福岡市)で、事実上の凍結が発表されました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、西鉄が後ろ向きな姿勢に転じたこともあり、当面、計画が実現に動き出すのことはなさそうです。

この直通計画で難しいのは、西鉄側のホーム延伸には巨額の費用がかかり、投資に見合うリターンが得られないことです。貝塚線は現状、2両編成で間に合う程度の輸送量で、これを6両編成にしてもガラガラになってしまいますし、そのための投資を西鉄に求めるのは無理な話です。

そのため、ホーム延伸はせず、車両の調整で実現できる方策を模索しましたが、採算がとれる直通方法は見つかっていません。

6両対応の準備が進んでいる貝塚~西鉄香椎間のみの直通運転を先行させるアイデアもありますが、それでも6両化には西鉄の大きな投資が必要となります。短い路線にもかかわらず西鉄香椎で運用を分け、6両と2両の車両を保有しなければならなくなるのも重い負担でしょう。そう考えると、「西鉄香椎先行案」も、やはり現実的とはいえません。

となると、福岡地下鉄・西鉄貝塚線の相互乗り入れによる直通運転の実現は、当面難しそう、という結論にならざるを得ません。

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